懲役太郎とOEDの話

オックスフォード・イングリッシュ・ディクショナリー編纂秘話に無理矢理こじつける話題のバーチャル・ユーチューバーの話題

『博士と狂人』サイモン・ウィンチェスター/著 を読んで

 本日は、「死体を山に埋める誤り」などでバズっている懲役系(?)Vtuber懲役太郎氏と、世界最大の英語辞典『オックスフォード・イングリッシュ・ディクショナリー(OED)』編纂にまつわる書籍『博士と狂人』について語っていこうと思います。

 懲役太郎氏は、現在登録者数5万6千人以上を誇るバーチャル・ユーチューバーで今なお服役中。刑務所内から配信という、ちょっと変わった(いや、随分変わった)ユーチューバーです。そのことと、OEDの何が関係あるの?と思われる方もいらっしゃると思いますが、英語史に詳しい方ならピンとくる話かも知れません。今日は、その話。

 この懲役太郎という男性。私は、刑務所内から配信という「設定」なのかと思っていましたが、どうやら本当に服役中のようです。バーチャルなので、自分に似せた囚人服のアニメーションが獄中から発信されているわけですが、そのアニメーションを書いている漫画家「俺太郎先生」と「刑務官」のことを「先生」と呼び、他の受刑者のことを「懲役」と呼び、話題のニュース、事件や事故、刑務所内の話などを話すというスタイルです。

 前置きが長くなりましたが、なぜOEDなのか。そして、「狂人」と「OED」がどう関わっているのかについて説明していこうと思います。

 「博士と狂人」とは、イギリス人の編集主幹マレー博士とアメリカ人陸軍大尉で外科医のマイナー博士のことです。マレーは貧しい家庭に生まれ、学校へは14歳までしか行っていないのですが優秀であったため17歳で地元の中学校に雇われ、20歳で校長になります。教員では食べていけないことから、ロンドンで銀行員になり、独学で言語の知識を身につけ言語協会の評議員になり、ケンブリッジ大学で教えることになります。そうしてOEDの編纂主幹になっていきます。

 一方、マイナー氏はアメリカ人でボストンの名家の出身。「連邦軍」に軍医として入隊し、南北戦争の極限状態で狂人となって退役。静養していたロンドンで、妄想から彼は人を殺してしまいます。結局彼は精神病院に送られたのですが、病院も彼を大切にし、彼は読書生活を送ります。そこで偶然見つけた辞書編纂ボランティア募集に応募したのがきっかけで、この壮大なる世界最大の辞書編纂を獄中といいますか、精神病院から文通という形で支えていくというストーリーです。

 懲役太郎氏は、辞書の編纂はしていませんし、今のところその予定もなさそうですが、なんとなく「刑務所から配信」という不思議な設定と「精神病院」から辞書編纂の手助けという狂った境遇が少し重なってしまいました。

 ミステリーのような展開と、辞書編纂の過程をたどるという壮大なるロマンと、なぜか重なるポケベル世代の累犯ユーチューバー。隔絶された社会から、何かを発信し続けることの圧倒的なものすごさを感じずにはいられません。

 「長く引っ張った割には、共通項まるでないやん」と言われそうですが。似てませんかね。

 

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